◆ 新たな決済手段「でんさい」登場。これは便利そう! ◆
従来の手形に代わる新しい決済手段として、電子記録債権(でんさい)がスタートします。
電子記録債権は、すでに三菱東京UFJ銀行グループの「電手」などに見られるように、3つのメガバンクで優良上場企業を対象として実際の運用が始まっていますが、今後、中小法人を中心として、新たな決済方法として急速に普及することが予想されます。
1.「でんさい」とは?
「でんさい」は、電子的な手形ともいえるもので、平成20年12月に施行された電子記録債権法により創設されたITを活用した新しい決済方法です。
「でんさい」のイメージとしては、従来「紙」で行っていた手形の振り出しや裏書譲渡・割引などが電子的な方法で行われると考えればわかりやすいでしょう。不渡りになった場合にペナルティが科せられたり、裏書譲渡をした場合に譲渡人が遡及義務を負うなどのしくみは、「でんさい」でも同じです。
しかし、「でんさい」は、単純に従来の「紙」の手形を電子化したものではなく、手形・振込などの複数の支払い手段を一本化して行うことができる、もっと幅の広い新しい決済方法です。
この新しいシステムのために、全国銀行協会により設立されたのが、㈱全銀電子債権ネットワーク(通称「でんさいネット」)ですが、この「でんさいネット」によリ記録された電子記録債権を「でんさい」と呼びます。
「でんさいネット」は、これからご説明する「でんさい」取引を記録・管理する機関で、登記で言えば登記所のような役割を担っています。
2.「でんさい」のメリットは?
「でんさい」を利用することによるメリットは、手形の発行や取立などの事務負担がなくなることや、手形と異なり印紙税が課税されないことなどがありますが、いちばん大きなメリットは、次の2つと思われます。
① 必要な金額だけ分割して割引・譲渡できる
取引先から受け取った「でんさい」は、必要な分だけ分割して譲渡したり割引いたり できますから、1000万円の「でんさい」の内800万円を譲渡し、残りの200万円を支払期日まで残しておくことも可能になります。「でんさい」の発生(手形で言えば「振り出し」)などは、1万円以上100億円未満でなければ「でんさいネット」に記録できませんが、割 引や譲渡をした結果、手許に残る親債権が1万円未満になっても問題はありません。
② 売掛金回収の確実性が増し、資金繰りがしやすくなる
債権者の立場からすると、得意先に請求をしても、いつ代金が振り込まれるかわからないという不安な気持ちが付きまとうものです。売掛金は帳簿で管理しているだけですから、実際に代金が振り込まれるというは確実な保証はありません。
決済方法を振込から「でんさい」に変更すると、「でんさい」には手形と同じように支払不能処分制度がありますから、債権の回収がより確実なものになります。
また、振込の場合ですと、実際に代金が振り込まれるまで売掛債権を眠らせていることが多いと思われます。「でんさい」を利用することで、支払期日前でも簡単に「でんさい」を譲渡したり割引したりできますから、「でんさい」は資金繰りを円滑に行うためにも有利な手段になるでしょう。
3.取立料や割引料は?
「でんさいネット」は、銀行のほか信用金庫や信用組合なども参加する、全国規模のネットワークですが、取立料や割引料は各金融機関ごとに個別に設定されます。
「でんさいネット」は、電子政府の構築という、いわば「国是」に沿ったものである以上、早期の普及のためには、取立料や割引料を少なくとも現行の水準より引き下げることが望まれます。
4.でんさいネットの今後の展望
「でんさいネット」は、当初は平成24年5月に開業する予定でしたが、現在のところ各金融機関の足並みは必ずしもそろっておらず、開業は予定より遅れています。
しかし、「でんさいネット」は、全国124の銀行と273の信用金庫、116の信用組合が参加を表明しており、「でんさいネット」の導入により売掛金180兆円が流動化するとも言われる一大プロジェクトでもあります。
かつて、「使い物にならない」と言われていた国税庁の電子申告システム(e-Tax)の利用件数は、その後の改良により、現在では法人税の全申告件数のうち80%以上を占めるに至っています。
同じように、「でんさい」も多少の曲折はあるものの、今後急速に普及することが予想されます。取引先(納入先)が大手企業である場合、支払い手段を「でんさい」に限る、というような取引条件を提示してくることも考えられ、今後の動向には注意が必要です。
2012.5.14