No.61 賃上げ税制改正-大企業・中堅企業向け

 従来の所得拡大促進税制が見直され、企業の規模に応じたきめ細かい制度に改正されました。また、女性の活躍を支援する視点から新たな措置も手当されています。

 新制度は、1年決算法人の場合、令和7年3月決算法人から適用されます。ここでは、大企業(資本金1億円超の企業)向けと、新たに設けられた中堅企業向けの改正の内容ご案内します。 

1 対象となる企業の区分が2区分から3区分へ
 従来は、賃上げ促進税制は「大企業向け」と「中小企業向け」の2区分に分けて運用されてきましたが、改正後はこの区分が(イ)大企業向け(ロ)中堅企業向け(ハ)中小企業向けの3区分に細分化され、それぞれの企業の規模に応じた制度に見直されています。
 

改正後

<3区分>

大企業向け中堅企業向け(新設)

中小企業向け

改正前

<2区分>

大企業向け

中小企業向け

 


2 控除率の改正(大企業向け)
 大企業(資本金1億円超の企業)については企業の区分ごとの控除率は次のように改正されました。 
  改正後 改正前

継続雇用者給与等支給額

(前年度比増加率)

税額控除率

注②

教育訓練費

上乗せ率

注①

女性活躍支援

上乗せ率

合計控除率

税額控除率

上乗せ率

教育訓練費 合計控除率
+3%以上 10% 5% 5% 20% 15% 5% 20%
+4%以上 15% 25% 25% 5% 30%
+5%以上 20% 30%      
+7%以上 25% 35%      

 

注① 改正で新たに女性活躍支援の上乗せ率5%が設けられました。但し、この適用を受けるためには、「プラチナくるみん又はプラチナえるぼし」の認定を受ける必要があります。大企業の場合は、単に「くるみん又はえるぼし」だけでは制度の適用は受けられず、よりグレードが高いプラチナくるみん又はプラチナえるぼしの認定を受けることが必要です。

 

注② 教育訓練費が前年度比で10%以上増加(改正前は20%以上増加)した場合は控除率が5%上乗せになります。この上乗せ措置自体は改正前からありましたが、改正で教育訓練費の額が全給与等支給額の0.05%以上の場合にのみ適用 

されることになりました。

● この制度の適用を受けるためには、改正前から、資本金又は出資金の額が10億円以上であり、かつ常時使用する従

業員数が千人以上である企業は、「給与等の支給額の引き上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項」を公表しなければならないこととされていました。しかし、改正で、資本金などの数値がこれらの基準に満たなくても、常時雇用する従業員の数が2,000人を超えている場合には、上記の事項を公表しなくてはならないこととされました。

 

● また、改正で上記の「給与等の支給額の引き上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項」にある『取引先』には消費税の免税事業者が含まれることが明確化されましたから、取引先が免税事業者であった場合の価格

交渉において大企業は今後慎重な対応が求められることになると思われます。

税額控除限度額の計算

 税額控除できる金額の限度額は次の算式で求められます。

控除対象雇用者給与等支給額 × 2の表の税額控除率(最低10%~最高35%) 

 但し、当期の法人税額の20%が限度となります。この点は改正前と同様です。

3 控除率の改正(中堅企業向け)

 この度の改正で新たに「中堅企業」という区分が設けられましたが、中堅企業とは青色申告書を提出する法人で常時使用する従業員の数が2,000人以下である企業を言います。

 したがって、資本金が1億円超であっても常時使用する従業員数が2,000人以下であれば中堅企業に該当します。

 但し、その法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある法人の常時使用する従業音数の合計数が1万人を超えるものは除かれます。分かりにくい表現ですが、要するに、子会社などを含めた全体の従業員数が1万人を超える場合は、たとえその企業単体で従業員数が2,000人以下であっても中堅企業には該当しないということです。

 

 中堅企業の控除率は次のとおりです。

継続雇用者給与等支給額
(前年度比増加率)
税額控除率 教育訓練費
上乗せ率
 女性活躍
支援上乗せ率
合計控除率
+3%以上 10% 5% 5% 20%
+4%以上 25% 35%

 

 中堅企業の教育訓練費や女性活躍支援などの上乗せ措置は大企業の場合と概ね同じです。 

 但し、女性活躍支援の上乗せにおいて、大企業の場合はプラチナくるみん又はプラチナえるぼしの認定を受けていることが要件とされていましたが、中堅企業ではこの要件に加えて「えるぼし認定3段階目」を受けた事業年度も含まれることとされていますからから、大企業より適用される企業の範囲が少し広げられています。

税額控除限度額の計算

 税額控除できる金額の限度額は次の算式で求められます。

控除対象雇用者給与等支給額 × 3の表の税額控除率(最低10%~最高35%) 

 但し、当期の法人税額の20%が限度となります。この点は改正前と同様です。

4 おさらい

◆ 継続雇用者給与等支給額

 「継続雇用者給与等支給額」とは、当期と前期の2年間継続して給与等の支給を受けていて、雇用保険の対象となっている雇用者に支払われた給与等をいいます。したがって、この2年間の中途で退職したり、新たに雇用された雇用者に支払われた給与等は含まれません。

 また、役員やその親族等の特殊関係者に支払われた給与等も除かれます。

 

◆ 控除額の計算の仕方

雇用者給与等支給増加額 × 控除率 

 上記算式の雇用者給与等支給増加額の「雇用者給与等支給額」とは、国内雇用者に支給した給与等のことです。「国内雇用者」とは、賃金台帳に記載された者で中途退職者や新たに雇用された者、さらにパート、アルバイト等を含みますが、役員やその親族等の特殊関係者は除かれます。