個人所有の土地に会社名義の建物を建てた場合、課税関係はどうなるか。

 私が個人で所有している土地に、会社名義の建物を建てて賃貸収入を得ようと考えている。会社は私のオーナー会社だから、会社と私個人との間で権利金や地代の授受を行う予定はない。この場合、会社に借地権が発生して課税関係が生じることはあるか。


 会社に借地権相当額の受贈益が発生して、法人税が課税される。但し、一定の手続きをとれば課税を回避することができる。

         


1.基本的な考え方

 法人が個人の土地を使用する場合は、通常であれば会社から個人に対して権利金の支払いが行われ、会社は借地権を取得することになる。

借地権(権利金)  /  現金預金

 

 質問のように、土地所有者と会社のオーナーとが同一であるため権利金が支払われない場合は、会社は無償で借地権を取得したことになるから、会社は借地権を取得すると同時に受贈益を計上することになる。受贈益には通常の法人税が課税される(借地権の認定課税)。

 借地権の価額は、一般には土地の更地価額(時価)に借地権割合を乗ずるなどの方法によって算定する。

借地権(権利金)  /  受贈益

 

 尚、この場合、地主である個人に所得税が課税されることはない。所得税法上の収入金額は、その年において収入す

べき金額と規定されているため(所法36条)、現実に収入しない権利金に対して課税はできないからである。

 

2.借地権の認定課税は実際に行われるのか

 上記のように、法人が土地を無償使用(使用貸借)した場合は、理論的には借地権が発生し認定課税が行われるが、

実際には個人が借地権を意識せずに、自ら経営する同族会社に無償で土地を使用させることが少なくない。このような

ケースで、杓子定規に借地権の認定課税を受けたという例はあまり聞かない。

 税務調査の現場では、調査官が借地権を認識し認定課税を指摘する場合でも、次に述べる「土地の無償返還に関する届出書」を提出するように指導することで認定課税を見合わせるケースも実際には多い。

 

3.借地権の認定課税を回避する方法

①「土地の無償返還に関する届出書」を提出する

 そもそも土地の無償使用(使用貸借)には借地借家法の適用はないから、借地人は地主から要求があればいつでも無償で土地を地主に返還しなければならない。このような借地人の薄弱な権利に対して借地権を認定し課税することは実情にそぐわない。税務では、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人がその土地を無償で返還することにを明らかにし、地主・借地人双方の連名で「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出したときは、借地権の認定課税をしないこととしている(法基通3-1-7参照)。

 

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土地の無償返還に関する届出書.pdf
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「土地の無償返還に関する届出書」提出のポイント
  当事者の一方又は双方が法人であること(双方が個人の場合は提出不要)。
 返還時に立ち退き料などの支払いをしない契約になっていること(契約書の添付が必要)。

 その無償使用が権利金を収受する慣行のある地域で行われること

 (もともと慣行がなければ認定課税はあり得ない)。

 提出は「遅滞なく」行うこと(具体的な提出期限の定めはない)

② 法人から個人に「相当の地代」を支払う

 権利金の授受を行わない場合でも、権利金の代替として相当額の地代が支払われているときは、借地権は発生しないものとして扱われる。通常、権利金の授受が行われ借地権が設定されても毎年少額の地代が支払われるのが通例であるが、ここで言う「相当の地代」とはこのような少額の地代ではなく、権利金に代替するに足る相当額の地代である。

「相当の地代」の計算方法

 土地の更地価額 × 概ね 年6%

「土地の更地価額」とは時価をいうが、土地の相続税評価額又はその評価額の過去3年間の平均値を取るなどの方法により算定することもできる。


 上記の相当の地代が支払われれば借地権は発生せず、したがって認定課税も行われない。

また、相当の地代を支払うことにより、将来土地所有者が死亡して相続が発生したときは、土地の評価額を自用地としての価額の80%で評価することができる。

 しかし時価の年6%ということになると地代が相当多額になることも考えられ、毎年相当の地代を支払い続けることは資金的に困難な場合が多いと思われる。

* 権利金の額と地代の額とは、逆の比例関係にある。即ち、地代の額が大きいほど権利金の額は少さくなり、地代の額が小さいほど権利金の額は大きくなる。相当の地代を支払うことにより権利金の認定がされないということは、権利金0円に対応する地代が「相当の地代」ということになる。

<地代の認定>

 ①でみたように、法人が「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば借地権の認定課税は行われないが、この場合でも、相当地代の認定が行われる。借地権の認定が行われない、即ち権利金の額が0円であるということは、その代替として相当地代が支払われると考えるからである。

 しかし、この場合は、実際に地代は支払われていないから、地代の支払い(借方)と同時に受贈益(貸方)も計上される。結果として、借地人である法人に課税関係は発生しないことになる。

支払地代  /  受贈益

 土地所有者である個人においても、実際に地代を収入していない以上所得税が課税されることはない。

上記の記述は、2013年5月3日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。

2013.5.3

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