振り込め詐欺により、多額の現金を騙し取られる被害が頻発しています。振り込め詐欺により騙し取られた金額の損失について、所得税法第72条の「雑損控除」が適用できるか否かが争われた、国税不服審判所の裁決事例です。
-雑損控除とは?-
「雑損控除」とは、納税者やその親族等の資産について、災害、盗難又は横領により損失が生じた場合に、所得から下記の金額を差引くことができる制度です。
所得から差しける金額 = 次のA、Bのいずれか大きい金額
A 災害・盗難・横領による損失額 - 保険金などで
補填される金額 - 所得金額の10分の1
B 災害関連支出の金額(*) - 5万円
* 災害関連支出とは、災害により滅失した住宅や家財などを除去するための費用などを言います。
-被害のいきさつ-
A氏は、平成20年4月、長男を名乗る者から電話で「勤務先の金を流用したので、穴埋めのための金が必要だ。」とうそを告げられ、郵便局から相手方指定の銀行口座へ240万円を振込み送金しました。さらに、同年4月8日と4月10日にも同じ趣旨のうそを告げられ、再び260万円と320万円を振込み送金しましたので、A氏は総額で820万円の現金を騙し取られたことになります。
その後、A氏は電話の相手が長男ではないことを知り、平成20年4月11日に警察署に被害届を提出しました。
A氏は、騙し取られた金額の損失が、所得税法第72条第1項(雑損控除)にある「災害又は盗難若しくは横領」のいずれかに当たると主張しました。
-審判所の判断-
<結 論>
これに対して審判所は、A氏が受けた損失は、「災害又は盗難若しくは横領」のいずれにも当たらないとして、A氏の主張を退けました。
<判断の根拠>
審判所は、「災害」、「盗難」及び「横領」は、いずれも個別の概念であるとして、それぞれについて、A氏の主張を個別に否定しています。
① 災害
A氏の振込み送金は、A氏の意思に基づいてなされたものだから、この損失は「災害」による損失には当たらない。
② 盗難
「盗難」とは、「財物の占有者の意思に反して第三者が財物を占有すること」であるが、この損失は、振込み送金がA氏本人の意思に基づいてなされているから、「盗難」による損失には当たらない。
③ 横領
「横領」とは、「他人の物の占有者が委託の任務にそむいて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をすること」であるが、振り込め詐欺の犯人はそもそもA氏の物の占有者ではないから、この損失は「横領」による損失には当たらない。
これが審判所の判断です。「災害」、「盗難」、「横領」の語句の定義からすればわからないこともないのですが、世間一般の常識からして、どうにも納得がいかない裁決のようにも感じられます。
国税不服審判所平成23年5月23日裁決 → https://www.kfs.go.jp/service/JP/83/09/index.html
2012.1.24