平成30年度の税制改正で、これまでの所得拡大促進税制が改組され、「賃上げ・設備投資促進税制」が創設されました。新税制では適用要件が大きくが簡略化されており、特に「平均給与等支給額」の煩雑な計算から解放される実務的なメリットは大きいと言えます。
新制度は、平成30年4月1日から平成33年3月31日までに開始する事業年度から適用されます。
賃上げ・設備投資促進税制の概要
新税制は、賃上げ・設備投資・人材育成のために企業者のモチベーションを上げることを目的として、従来の「所得拡大促進税制」を改組したものです。改正の目的は何であれ、これまで適用要件の判定のための煩雑な作業に時間と労力を費やしてきた実務家にとっては朗報と言うべきでしょう。旧来の煩雑な作業は、通常の法人の場合平成31年2月決算期をもって終了します。
新制度は、旧制度と同様に中小企業者と大企業とでは内容が異なっています。
1.中小企業者等向け(主に資本金1億円以下)
(1)適用要件
適用要件は次の1つだけです。この要件は、簡単に言えば前期比の賃上げ率が1.5%以上ということです。
(適用要件) 継続雇用者給与等支給額の増加割合が、前期比1.5%以上であること。 |
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(算 式) イ) 継続雇用者給与等支給額-ロ)継続雇用者比較給与等支給額 ロ)継続雇用者比較給与等支給額 |
≧ 1.5% |
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<用語の意味>
イ)継続雇用者給与等支給額
当期の継続雇用者に対する給与等の支給額を言います。
ロ)継続雇用者比較給与等支給額
前期の継続雇用者に対する給与等の支給額を言います。
*継続雇用者
事業年度の全ての月において給与等の支給を受けた国内雇用者。改正によって継続雇用者の範囲が大きく変わりまし た。詳しくは次の説明のとおりです.
改正によって変わった点(中小企業者・大企業共通) |
● 継続雇用者の範囲が簡略化されました。 改正前は、当期と前期とにまたがって給与等の支払いを受けている者であれば、当期と前期のうち一部の月にしか給与等の支払いを受けていない者であっても、継続雇用者としてカウントする必要がありました。 改正後は、当期と前期の全期間の各月(通常は24か月)において給与等の支払いを受けている者だけが継続雇用者とされることになりました。 したがって、前期中に入社した者や当期中に退職した者は継続雇用者から除かれることになります。この改正により、制度の適用に当って事務負担が相当軽減されることが予想されます。 |
● 平均給与支給額が廃止されました。 改正前は、継続雇用者に支給した給与等の総額を「給与等月別支給対象者数の合計数で割って継続雇用者一人当たりの平均給与を算出し、これを前期と比較するという煩雑な作業が必要でした。 改正後は、継続雇用者が当期と前期の全期間の各月に在籍していた者とされたため、継続雇用者に支給した給与等の総額と継続雇用者数とは完全な対応関係に置かれることになります。 したがって、一人当たりの給与額の平均を計算するという面倒な作業をする必要がなくなりました。 |
● 基準年度が廃止されました。 改正前は、基準年度(平成25年4月1日以後に開始する事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度) の雇用者給与等支給額に対して、一定割合以上の増加率が適用要件とされていました。 改正後は、継続雇用者給与等支給額の前期比増加割合が1.5%以上(大企業は3%以上)であれば適用が受けられることになりましたから、基準期間という概念が廃止されることなりました。 |
(2)税額控除額
給与等支給増加額(前期より増加した給与等支給額)×15%
但し、この税額控除をする前の法人税額の20%が限度となります。
(3)上乗せ措置
上記のとおり、控除税額は給与等支給増加額の15%ですが、次の「上乗せ措置を受けるためにの要件」の①と②の
両方の要件を満たせば、10%上乗せして25%となります。
即ち、給与等支給増加額(前期より増加した給与等支給額)×25%
この税額控除をする前の法人税額の20%が限度となることは、税額控除率が15%の場合と同じです。
上乗せ措置を受けるための要件(中小企業者向け) | |||||||||
①継続雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上
≧ 2.5% |
②次のイ・ロのいずれかの要件をを満たすこと。 イ 当期の教育訓練費の額が、前期の教育訓練費の額に対して10%以上増加していること。 ロ 中小企業経営強化法に基づく経営力強化計画の認定を受けており、経営力向上が実際になされて いることが証明 されたものであること。 |
2.大企業向け(主に資本金1億円超)
(1)適用要件
適用要件は次の2つの両方を満たすことです。大企業は、賃上げのほか一定の設備投資をしなければ適用を受けることはできません。
(適用要件1) 継続雇用者給与等支給額の増加割合が、前期比3%以上であること。 |
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(算 式) イ) 継続雇用者給与等支給額-ロ)継続雇用者比較給与等支給額 ロ)継続雇用者比較給与等支給額 |
≧ 3% |
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(適用要件2) 当期の国内設備投資額が、当期の減価償却費の90%以上であること。 |
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(算 式) 当期の国内設備投資額* ≧ 当期の減価償却費 ×90% *当期の国内設備投資額とは、当期に取得等をした国内減価償却資産となる資産で、 当期末に有するものの取得価額の合計額を言います。 |
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(2)税額控除額
給与等支給増加額(前期より増加した給与等支給額)×15%
但し、この税額控除をする前の法人税額の20%が限度となります。
(3)上乗せ措置
上記のとおり、控除税額は給与等支給増加額の15%ですが、次の要件を満たせば5%上乗せして20%となります。
即ち、給与等支給増加額(前期より増加した給与等支給額)×20%
この税額控除をする前の法人税額の20%が限度となることは、税額控除率が15%の場合と同じです。
上乗せ措置を受けるための要件(大企業者向け) | |||||||||
≧ 20% |
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= *比較教育訓練費の額 |
参考:措法42条の12の5
2018.5.5